vol.001
DISC REVIEW

Death In The Arena : Clint Eastwood

Death In The Arena : Clint Eastwood

独自の巻き舌トースティングで一時代を築き70年代を代表するDeejayとなったClint EastwoodがChannel Oneから発表した傑作。 シンガーと違い、Deejayの旬というのはほんの一瞬。それゆえ、その瞬間を捉えた作品には輝き閃きが爆発せんばかりに充満している。それが、僕がレゲエの中でも特に70年代のDeejayモノに魅かれる要因。バックはコンピュータライズ以前のスライ&ロビーはじめ、最高の演奏でゲットーのラフなリディムを体現している。

Mr.Isaacs : Gregory Isaacs

Mr.Isaacs : Gregory Isaacs

僕の一番好きなルーツ・シンガーは多分Gregory Isaacsだろう。Cool Rulerっていうニックネームが全てを表していて、そのソウル溢れるエレガントな歌唱は僕の中ではマービン・ゲイやカーティス・メイフィールドなんかと同じライン上に位置している特別なシンガー。そのルードで洒落た存在感は映画の中でも際立っていた。77年リリースの文句のつけようのない奇跡の傑作。

Commandments Of Dub 1 : Jah Shaka

Commandments Of Dub 1 : Jah Shaka

コクソンやデュークに続くイギリスのおけるサウンド・システムの始祖の一人で、 どこまでもヘヴィー&スピリチュアルなスタイルは独特。 セレクター/DJ/オペレーターと一人で何役もこなす彼の姿は、 凄みがありながら、どこかコミカルな感じが魅力的。 レゲエの流行に背を向け、唯我独尊を貫くこの姿こそが、真のインディペンデントだと思う。 ジャーシャカ自身のレーベル1作目となるこのアルバムは、一連のダブ・シリーズの出発点。

Dread At The Control Dubwise : Mikey Dread

Dread At The Control Dubwise : Mikey Dread

70年代のジャマイカで彼が作り上げたラジオショウ<Dread At The Controls>のスタイルは革新的だった。 最新のアナログ盤やスペシャルを使ったその内容は、サウンドシステムの熱気を スタジオに持ち込むという斬新なもの。 このアルバムは、彼自身のレーベルで発売されたユニークでアイデア満載なダブ作品で、 ラジオ・ショウで培われた感覚がコラージュ的に構成された独自の世界観を作り上げている。 Clashとの活動等、パンクに与えた影響も強いと言われてるが、彼だけでなくこの時代のレゲエの 自由でラフな空気感は、当時のイギリスのパンクの中に、ある種の憧れとして内包されている。 録音はChannel One。

Them A Mad Over Me : Yellowman

Them A Mad Over Me : Yellowman

イエローマンの登場でダンスホールの時代が幕をあけた。 ユルイ独特のトースティングは革命的な衝撃で、レゲエの方向性をいっきに違うヴェクトル へと持っていった。ただ、これは常に言える事だけど、革新的なスタイルというのは、実は 一人の天才が作り出すわけではなく、同時代には同じ様な感覚/アイデアをもったアーティストが 多々いて、その切磋琢磨の中でスタイルが磨き抜かれて、あるときにそれが確立される。 それはバロック音楽におけるバッハ、ジャズにおけるマイルスですら同じ事で、歴史と時代の意思に 導かれるかのように、新たな創作の思考/才能は共振を続ける。 イエローマンも当然同じで、意識的自然発生でダンスホールが生まれ、そこには何人もの勇壮な アーティストの死骸がある。彼は勝ち残り、新しい時代を切り開いた歴史となった。 でも、その背後には知られざる有能な人々の熱意/失望が必ずあるものです。

MANIA : RAMONES

MANIA : RAMONES

1974年にニューヨークで結成されたバンド。 これ以上ライダースジャケットが似合うバンドは観た事がありません。 パンクバンド経験者なら誰もが”BLITZKRIEG BOP”(邦題は電撃バップ) をコピーした経験があるはずと言いいきれるくらい定番中の定番。 アメリカのパンクを代表するバンドとして紹介される事が多いバンドですが、 サウンドの方はというとサーフロックのような清涼感のあるストレートなロックです。 サスペンドするドライブ感はまさにドライブのおともにピッタリのアルバムです。 ここしばらく自分が作っているトラックのコンセプトである ”盛り上げない””盛り下げもしない”低空飛行なグルーヴ”はラモーンズの影響があるのかも知れません。

[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=kJizV-d3sEQ&feature=related[/youtube]

Machine Gun Etiquette : THE DAMNED

Machine Gun Etiquette : THE DAMNED

これ15歳くらいの時に買って今でも聴いてます。 ピストルズ、クラッシュらと共にパンクロックを代表するグループとして有名ですが、 僕の印象としては、ピストルズは”雑”で、クラッシュは”硬派”で、一番しっくりきたのがこの"the damned" パンク=反骨、または反社会性といったイメージを持つ人も多いと思いますが、 このグループは切り口がそういうのとはひと味違うんです。 いつもちょっとふざけてるんですね。 しかしこの3つのグループの中では一番テクニカルで音楽的にも面白い。 ルックスもメンバーそれぞれバラバラでキャラが際立ってて、 そういったとこが少年期の僕のハートを鷲掴みにしたわけです。 ボロいラジカセでフルボリュームで聴くと最高ですよ。

[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=tHx7eYTzp6A[/youtube]

Germfree Adolescents : X-Ray Specs

Germfree Adolescents : X-Ray Specs

70年代後期のパンク。 これね、問題作ですよ。 そしてこの中に収録されている"OH BONDAGE UP YOURS!"は名曲です。 テストチューブとカラフルなルックスに目がとまって、 ジャケ買いした一枚ですが、いろんな意味でたまらない一枚です。 サックスなんて、ほんと凄いですよ。 ”大雑把”っていうのが良い方向に作用しているナイスなアルバムです。 驚いたのがこのバンド、今でも現役なんだそうです。

[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=ogypBUCb7DA[/youtube]

9 modules.+ : YOSHIHIRO HANNO

9 modules.+ : YOSHIHIRO HANNO

やや手前味噌な感じですが半野さんのアルバムを紹介します。 この『9 modules.+』エクスペリメンタル/エレクトロニカの最高傑作だと思います。 初めてこのアルバムを聴いた時、もうこういったアプローチの音楽をやる必要ないなと思ってしまいました。 間違いなく一時代を代表する音楽として後世に残るアルバムになると思います。

[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=fR22tOiVgbg[/youtube]

FUNK POWER : JAMES BROWN

FUNK POWER : JAMES BROWN

ファンクマスター、ジェームス ブラウン。 この人についてはもはや説明不要だと思います。 ファンクそのもの。一度だけJ.Bを生で観た事があるんですけどね。 しかも大阪城屋音っていう小さなところで。 開演してしばらくバンドのメンバーがずっとミニマルな演奏をしてて、 なかなかJ.Bが出てこないんですよ。 そしたら舞台の脇からラメの衣装を着て颯爽と登場してきて しばらくマイクスタンドを持って踊ってるんです。 『いや~カッコイイなぁ~』なんて言って見てたら、 J.Bがマイクつかんで一言『Uh!!!』って叫んだら会場ドッカーン!!!ですよ。 『このおじさんはたった一言でなんて良い仕事するんだろ~』と思いました(笑) それ以来ずっと僕のヒーローです。

[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=i68V2Soab2Q[/youtube]

multistability : mark fell [raster-noton]

multistability : mark fell [raster-noton]

音色もシーケンスも極端なまでに数学的に構成されているけど、その極端な突き詰めの結果、逆に音が自然の物理法則に限りなく近い 動きになって、その両方のコントラストが非常に心地良い。全ての面において過激で極端ですが、それがまた美しい。 時間の感覚もぶっ飛ぶ強烈なmaster piece。科学の力を使って宇宙と直結です。この次元と更なる高次元を繋げるneutrinoのような音楽。 科学も究極まで進歩すれば、結局は自然になるんですね。 mark fellご本人もホントにこの音のような方です。音は人を表しますね。purely extreme. beautiful.

Heart Of The Forest : Baka Beyond, Baka Forest People [Hannibal]

Heart Of The Forest : Baka Beyond, Baka Forest People [Hannibal]

カメルーンの南西のBakaの森に住んでおられる方々の日常に溢れる音楽を収録したCDです。飯野賢治さんから教えていただきました。 地球と同調した昆虫が発する音と、地球と同調した人間が発する音が混じって一つのgrooveを形成していて、 いつ聴いても何度聴いても心地よくて飽きない。素晴らしい音楽です。 全てが人口的にシンセサイズされた都会に住む現代の地球人に必要な、母なる地球のエネルギーがgrooveになって詰まってる気がします。 製薬会社の作ったプロダクトを飲んで健康を取り戻そうとするよりも、良いオーディオ環境でこのCDを聴きながら深呼吸した方が身体にも精神にも良いと思う。 地球文明の機能不全に疲れた都会人にsuperお勧め。自分はこの音に救われました。感謝。

Original Live Beat System Stereo : Bun / Fumitake Tamura [TAMURA]

Original Live Beat System Stereo : Bun / Fumitake Tamura [TAMURA]

僕のtumblrをフォローしてくれた人のページをボーっとチェックしてて、その人の音楽がアップされてたので何気に聞いてみたら、 めちゃめちゃカッコ良くてもうどんどん中毒になってしまって、思わずその場で購入してしまって、全部聴いたらもう感動して メイルまで送ってしまって、、それがBunさんとの出会いでした。Bunさん、tumblrをフォローしてくれてありがとう。 こんなカッコイイ音の質感で、こんなカッコイイgrooveを作る日本人もおられるんやなーと、思いっきり希望が持てた一枚でした。 Bunさん、貴方はカッコイイし、人間的にも素晴らしい。この出会いに感謝です。

balance : Philippe Cam [Traum Schallplatten]

balance : Philippe Cam [Traum Schallplatten]

"I want you" のロゴやフライヤーのデザインを担当されている水谷さんから教えていただきました。 アルバムのタイトル通り、とにかく全ての面で素晴らしくバランスの取れた美しい仕上がり。 構成も展開も音色もgrooveも無駄がない、それでいて優しい。音の振動を凄く上手にお使いになられている。 philippeさんもきっと繊細で良い人に違いない。

DILLA JOINTS : THE ROOTS

DILLA JOINTS : THE ROOTS

Bunさんから教えていただきました。J Dillaの曲をThe Rootsがカヴァー。 何も言う事はありませんが、やっぱりリズムは物理法則に沿ったタイミングで鳴るほど気持ち良いものはないと僕は感じます。 J DillaもQuestloveさんもそれを直感的に理解しておられるんじゃないかと、僕は勝手に思っております。 一つ一つの音が異なるバネ定数のバネで繋がれて、それが無重力状態の空間を動き回っているような、そんなstickyなgrooveが美しく心地良い。 乾いたスネアが潔くてたまらない。普通にネットでdownloadできるし最高。感謝です。

http://soundcloud.com/hypetrak/sets/the-roots-dilla-joints

Danielsson / Dell / Landgren : Salzau Music on the water [Act]

Danielsson / Dell / Landgren : Salzau Music on the water [Act]

スウェーデンのベース&チェロ奏者であり、作曲家でもあるラース・ダニエルソンが旧知のヴィヴラフォン奏者クリストファー・デルとトロンボーン奏者ニルス・ランドグレンを伴って、2005年7月ドイツ北部の小村サルツァウで行われたジャズ・フェスティバルへ早朝7時に出演したときのライブ録音。タイトルに"on the water"とあるように、湖の上に木製の浮き島のようなステージを組み、そこで3人がただ緩やかな隙間たっぷりな演奏を展開するという内容。さらにステージの周りには風鈴のような金属片をいくつも張り巡らし、それが演奏者のフィジカルなムーブメントと呼応してランダムに鳴るという仕掛け。こう書くと、ともすれば単なるギミック的なものに受け止められがちだけれど、プレイヤーたちが演奏するテンションに対し非常に微細に呼応しているので実に音楽的に作用してる。録音そのものも非常に良く、早朝の湖畔に集まる小鳥たちのさえずりも隈無く拾っています。「現象としての音楽」を強く感じさせてくれるエヴァーグリーンな1枚。

Robert Lester Folsom : Music and Dreams [Mexican Summer]

Robert Lester Folsom : Music and Dreams [Mexican Summer]

今年の夏、よく愛聴したアルバム。どうやらソフト・ロックの文脈では隠れた名盤という評価が高い1枚らしいんだけれど、僕は所謂ソフト・ロックに関しては門外漢なのでその辺の位置づけはよくわからない。個人的にはサイケデリックで一寸風変わりなフォーク・アルバムといった趣で楽しんでいます。1976年に無名のソングライターであったロバート・レスター・フォルサムが高校時代のバンドの延長で趣味的に自主制作したアルバムだそうで、確かに演奏的な部分でのアラを探せばキリがない。ですが、それを補って余りある垢抜けたソングライティングと小糠雨が漂うような独特のテクスチャーおよび情緒を伴ったサウンドが非常に魅力的でもある。"Biding My Time"のような曲ではこっそりとArp Odysseyなども使われており、これがまた実にいなたい、良いムードを醸し出しています。後にキリンジ堀込泰行氏がソロプロジェクト「馬の骨」で取り上げることになる"My Stove's on Fire"も秀逸。

Prince : 20ten [NPG Records]

Prince : 20ten [NPG Records]

Princeに関しては半野さんがさらに詳しいはずなので、僕がいまさら語るまでもないんですが…。昨年イギリスDaily Mirror誌とドイツ版Rolling Stone誌の付録としてリリースされたこのアルバムを聴いて、改めてPrinceの格好良さとほとばしる天才ぶりに圧倒されました。なかでもLinn DrumのチープでスカスカなグルーヴにPrinceらしい乾いたファンクネスが乗っかる"Sticky Like Glue"は出色の出来。それに、『Sign O The Times』期を想起させる"Lavaux"も素晴らしい。メジャー資本とのしがらみを完全に断ち切り、ミネアポリスのスタジオに籠って勝手気ままに創作を続けているであろう現在のPrinceですが、彼のような稀代の天才がこうして自由かつヘルシーな状態で音楽を創り続けている事実は僕らにとってもこの上ない幸運だと思います。

Bruno Pronsato : Lovers Do [Thesongsays]

Bruno Pronsato : Lovers Do [Thesongsays]

これまでOrac、Hello?Repeatに傑作アルバムを残してきた鬼才ブルーノ・プロンサートによる通算3作目のアルバムは、自身で立ち上げた新レーベルThesongsaysから。日本国内で流通しているこのCDのライナーノーツ執筆をさせていただく機会があり、これはそこでも書いたのですが、ブルーノの創り出すグルーヴは、語弊を恐れずに言えばジャズの本質的なそれに近いと思っています。とはいえ、彼はいかにもジャズっぽいクリシェ的フレーズやサックスなどを援用しているわけではない。ドラムを含めたサウンドそのものの質感、テンションとバランス、そしてその背後に潜む危なっかしくて鋭敏な精神や官能そのものとしてのジャズを彼はエレクトロニック・ミュージックの中で表現してると思うのです。CDのみでのリリースということもあってか、内容の良さとは裏腹に意外なほど話題になっていない気もしますが、素晴らしいアルバムなので是非聴いてみてほしいと思います。

Roman Flugel : Fatty Folders [Dial Rec.]

Roman Flugel : Fatty Folders [Dial Rec.]

ローマン・フリューゲルという人はいわば高値安定株のようなプロデューサーで、どんなタイプの作品でも悉く器用にこなしてしまう印象があったのだけれど、それゆえ彼自身の確固たる作家性がやや見えにくくなっているところも否めなかった。ところが今回Dialから届けられたアルバムは実にコミットメント度の高い、緊張感のある美しさに溢れたかなりの力作。個人的に彼本来の持ち味だと思っている、初期センソラマを思わせる素朴なメロディ感覚が復活してきたのに加え、硬質さと柔軟さを兼ね備えたトラック構造が高次にバランスした佳曲ぞろい。じっくり聴き込めてしっかり踊れる、いいアルバムです。ジャケットも美しい。

Mix-Up Vol. 2 Featuring Jeff Mills - LiveMix At Liquid Room, Tokyo / Jeff Mills

Mix-Up Vol. 2 Featuring Jeff Mills – LiveMix At Liquid Room, Tokyo / Jeff Mills

これに出会った時のショックは今でも忘れません。 ビルボードでアメリカンポップスを追いかけ、そこに流れる音楽が最高だと思っていた自分には全く初めての感覚でした。有機的に結び付いた疾走する音の塊り。こんな音楽があっていいのか?と当時の常識が崩れ、同時に凄く魅了されました。 同世代の中では誰もが聞いたCDでしたが、意外と知らない世代も出てきたので紹介します。

Decks, EFX & 909 : Richie Hawtin

Decks, EFX & 909 : Richie Hawtin

このCDリリース時、リッチーをサポートする機会があったのですが、ブースの中で見たエフェクターENSONIQ DP/2をフットペダルでコントロールしながらレコードをサンプリングし、909をリアルタイムプログラミングで絡めつつ、音を鳴らす彼の様子はDJと言うより演奏でした。 フロア全体が揺れ続け、迫力に圧倒された事を覚えています。 CDの内容はそのセットと同じくタイトルの通り、ターンテーブル、エフェクター、TR-909を用いて作られたmix。分厚いテクノグルーヴが聞けます。 ジャケットに収められた、mixのタイムラインを視覚化したダイアグラムも新鮮でした。

In Time, Like This Chapter 2 : DJ Kensei & DJ Quietstorm

In Time, Like This Chapter 2 : DJ Kensei & DJ Quietstorm

hip hopからhouseまで縦横無尽にミックスされる様にとても影響を受けました。 これだけ幅広い選曲でありながら重心低く途切れないグルーヴ。自分もこんなプレイをしてみたいと素直に感じ、これを聞いて以降暫くの間、自由度の高いラップトップでBPMに捕われない色々な曲のmixにトライしていました。 同じシリーズとしてChapter 1もあります。

DJ-Kicks : Daddy G

DJ-Kicks : Daddy G

前出のIn Time, Like Thisを聞いてから、フリースタイルなDJに魅力を感じている中出会ったこのCDも良く聞きました。Massive AttackのメンバーDaddy Gによるmix。 dub~reggae~最後はやはりhouseまでと、しなやかに心地よく旅させてくれる内容。 このCDをサンプリングしラップトップに取り込み、DJの際ツールとしてよく使っていました。

Via : Fumiya Tanaka

Via : Fumiya Tanaka

とても話題になったDVDですが、サウンドトラックとして同梱されていたCDが瞑想的で最高でした。 無駄のない展開、音の一つ一つに意味があり存在感がある。役目を持った音のパーツがmixに加わる度に高揚します。 僕は「母胎系」という音楽の括りを勝手に謳っているのですが、このmixもまさにそう。母のお腹の中で聞いていた音の記憶はありませんが、このCDと同じ心地よい響きがあったのではないかと想像しています。

DJ CHART
MOVIE REVIEW

MOVIE REVIEW : 荒野のストレンジャー

Clint Eastwood

イーストウッドが単純にかっこいいというのはもちろんのことだが、おもしろさを一言で言い表すことが難しい。現在でも現役で更新しつづけているのも驚きだが、わかりやすくこの人が変だなあという初期の映画「荒野のストレンジャー」について今回はかいてみます。

監督2作目である「荒野の〜」はとにかく説明がない。主人公は名前も過去も語らないし、この町も鉱山の利益で食べているというだけで実際に現場はうつらない。そして町自体もとても小さく何か変だ。どうやら町の鉱山利権を告発しようとした保安官が殺されてしまい、その復讐というか、怨念みたいな形でイーストウッドが現れたらしい。もちろんその関係性を告白するシーンもない。これは一体何の映画だろうか。 保安官は町の人達が用心棒を雇い殺させたらしい。だからもちろん町の人はそのことを知っている。自分たちの手は汚していないがわかってはいる。イーストウッド演じる流れ者が町の用心棒を殺したら、裁かれずにそれどころか再びやってくるであろう用心棒対策に雇われる始末。そうこの町には軸がないのである。警察をやくざが殺し、やくざが警察になる。そうするとまた警察を殺すためにまた別のやくざがやってくる。その繰り返しで善も悪もごっちゃになってよくわからない。それもこの映画のおもしろさの一つではある。しかし、町長以下町の人はその役割には入らない。これは彼らがいう「すべて水に流すのが我々の座右の銘」とまで言い切る。ここでこの町が書き割りのように新しくチャチく描かれているのがわかってくる。とんでもない色に町を染められることも彼らは受け入れる。すべては水に流れるから。ただし、墓標もたてられずにさまよう保安官の霊は主張する。自分が用心棒に殺された同じ場所で逆のことが起こる。そして再び町の人々は集められ目撃させられる。復讐する霊の顔は意図的に映らない・・

用心棒は聞く「お前は誰だ」 イーストウッド演じる流れ者は答えない。

イーストウッド本人もインタビューであいまいにしたといった。自分達でそれぞれ感じてほしいと。そうこの映画は因果関係で逃げられないように仕組まれている。 映画の秘密がここに隠されている。秘密をしゃべるはずかない。目撃するしかないのです。 イーストウッドが何でこんな映画を作ったのかおそろしい。狂っている。 やっぱり電子音ではじまる映画に明るい映画はない。

 

甲斐田祐輔 Yusuke Kaida

1971年生まれ。
『TWO DEATHS THREE BIRTHS』(99)、『coming and going』(99)、『RAFT』(00)、 2003年には『すべては夜から生まれる』を監督する。また2008年『砂の影』がロッテルダム、ブエノスアイレス映画祭等に正式招待、日本国内外で上映される。 最新作は音楽家中島ノブユキのドキュメント「みじかい夜」。

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